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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)799号 判決

原告

平山磯春

被告

株式会社辰巳商会

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一七〇万三二六〇円及び内金一五五万三二六〇円に対する昭和五一年一二月一日から、内金一五万円に対する昭和五七年一月二九日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その五を被告らの負担とし、その二を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金六二一万三三三一円及び内金五三一万三三三一円に対する昭和五一年一二月一日から、内金九〇万円に対する判決言渡の翌日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告(大正六年八月二五日生)は、次の交通事故により負傷した。

日時 昭和五一年一二月一日午後二時四五分ころ

場所 神戸市東灘区魚崎浜町二七番地神港通運内

加害車 大型貨物自動車

右運転者 被告山田俊次

態様 原告が別紙図面(一)のとおり歩行中、原告の後方から原告の右肩に加害車の左角が衝突し、原告は飛ばされて転倒した。

結果 右肋骨骨折、右下腿骨折、右ひじ・右大腿・左下腿部の裂創等の傷害を受け、昭和五一年一二月一日から昭和五二年四月三日まで(一二四日)谷本外科に入院し、同年四月四日から昭和五三年七月二六日まで(実日数三六四日)同病院に通院し、九級の後遺障害を遺した。

2  責任原因

(一) 被告株式会社辰巳商会は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条による責任がある。

(二) 被告山田俊次は、前方不注視の過失により本件事故を起こしたものであるから、民法七〇九条による責任がある。

3  損害

(一) 入院中雑費 金六万二〇〇〇円

入院一二四日間、一日金五〇〇円の割合による。

(二) 通院交通費 金一四万五六〇〇円

通院三六四日間、一往復四〇〇円(自宅から谷本外科まで乗換え乗車)。

(三) 逸失利益 金四八二万五七三一円

年収二〇九万二五四九円、就労可能年数八年、労働能力喪失率三五パーセント、そのホフマン係数六・五八九

〈省略〉

(四) 慰藉料 金四二〇万

前記傷害及び後遺症からして、右金額が相当である。

(五) 弁護士費用 金九〇万円

4  よつて、原告は被告らに対し、各自右損害金合計金一〇一三万三三三一円から、自賠責保険(後遺障害に対する補償)金三九二万円を控除した金六二一万三三三一円及び内金五三一万三三三一円について事故発生の昭和五一年一二月一日から、内金九〇万円については判決言渡の翌日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)のうち、日時・場所、関係車両とその運転者については認める。

事故の態様は否認する。すなわち、本件神港通運構内において、被告山田は、別紙図面(二)のとおり、コンテナをプラツトホームに着け、被告車両(同図面のA車)のヘツド部分だけを切り離して、左隣のプラツトホームに着いていた車両(同図面B車)の前方を左に回ろうとしていたところ、原告は、別紙図面(二)のとおり被告車の後方のプラツトホームから事務棟に向かつて被告車と隣の車両の間の狭い間隙を通り抜けて来て、被告車の燃料タンク部分に右足からぶつかつて倒れたものである。

事故の結果は知らない。

2  請求原因2(一)のうち、被告会社が原告主張の車両(以下「被告車」という。)を所有し、自己のため運行の用に供していたものであることは認める。

同2(二)の事実は否認する。

3  同3の事実は争う。

三  抗弁

1  被告会社の免責

本件事故は原告の一方的過失によるもので、被告両名は被告車の運行に関し注意を怠らなかつたものであり、また被告車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

2  損害の填補

原告は、自賠責保険から、治療関係費として金一〇〇万円、後遺障害に対する補償として金三九二万円の支給を受けた。

また、原告は、本件事故の当月である昭和五一年一二月分から昭和五三年七月分まで二〇か月間、神戸西労働基準監督署から休業補償の給付を受け、その総額は金一九五万四八〇〇円である。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は否認する。

同2の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1のうち、事故の日時・場所、関係車両とその運転者に関する事実は、当事者間に争いがない。

二  事故の態様

1  成立に争いのない乙第二号証、撮影年月日、撮影対象、撮影者とも原告主張のとおりであることにつき当事者間に争いのない検乙第一ないし第八号証、証人平山あい子、同石川国男、同福重和雄の各証言並びに原告及び被告山田各本人尋問の結果を総合すると(但し、各証言及び尋問結果中、後記採用しない部分を除く。)、次の事実が認められる。

被告車は、大型コンテナを牽引する自動車であるが、被告山田は、本件神港通運の構内において別紙図面(一)の4番のプラツトホームにコンテナを着けた後、牽引車であるヘツド部分を切り離し、被告車の横に立つてしばらく他の者と立話をした後ヘツド部分のみを運転して発進・左折し、門の方に進行しようとした。本件当時被告車の左側には、人が一人通れる位の間隔を置いて別のコンテナ車(B車という。)が並行して停止していた。

原告は、本件事故の前、別紙図面(一)のじゆうたんの芯の置かれていた場所で作業をしてた如くであるが、その後、いずれかの場所経由をして(後述)被告車と隣のB車との間に至つた。

そして、被告車が発進後やや前進して左折しかけた際、被告車(ヘツド)の左側面と原告の右肩の部分とが衝突ないし接触して原告はうつぶせに倒れ、車体の下にまきこまれたが、折から前方から見ていた者が被告山田に停止の合図をしたので被告山田は停止した。

前掲各証言・尋問結果中右認定に反する部分は採用せず、次に検討するほか、右認定を左右するに足る証拠はない。

2  ところで、原告が事故現場に至つた経路につき、原告本人は別紙図面(一)のとおり歩いてきたものであつて別紙図面(二)のとおりではない、じゆうたんの芯のある作業場から図面の右手のプラツトホームの方にまわることは困難であり、また右図右手のプラツトホームは高さが一メートル三〇ないし五〇位もあつて容易に飛び降りることはできないから、右にまわつて被告車とB車との間を歩いてくるということはあり得ないと供述するに対し、証人福重及び被告山田本人は、原告か被告車の前方を通つたのであれば被告山田が気づかぬはずはなく、原告と被告車の衝突位置・衝突部位からして、被告車とB車との間を図面右手の方から図面(二)のとおり歩行してきたものとしか考えられないと供述するのであるが、どちらの供述も合理性と非合理性を含んでおり、いずれとも断定し難い。

3  原告は、原告が被告車の前方を横切ろうとした際、後から被告車の前部が原告の背面に衝突したと主張し、証人平山あい子及び原告本人は右に副うかの如く供述するが、右供述は事故を目撃した証人石川国男の証言に照らしいずれも採用し難く、他に原告主張に副う証拠は見当らない。

4  そして、被告山田本人は、発進にあたつては、前方、左右及び足元を確認したと供述し、また左後方に人がいるとは予想し難く、また本件当時の被告車は左わき下が死角になつていて運転台からは障害物を発見しにくい構造になつていたと供述するのであるが、前認定の事実に照らすと、本件構内には作業のための人が歩行あるいは佇立している可能性があり、この点は被告車の左側についても同様というべく、また、被告車の左わき下が死角になるとしても、そのために発進・左折するにあたり一層確認義務が増大することはあつても、確認義務が存しないということはできないところ、被告山田はその確認義務を十分に尽くさなかつたため本件事故を惹起したものというべきである。

以上のとおりであるから、被告山田は、発進・左折にあたつて左側方の安全確認を怠つた過失があるといわなければならない。

5  もつとも、前認定の事実によつてみると、原告の側にも、被告車の進行を予見してこれとの接触等を避けるべき注意義務があるのに、不用意に被告車の左わきに至つた過失があるというべきであり、双方の過失割合は被告山田が二、原告が一の割合と認めるのが相当である。

三  被告らの責任

被告会社が被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、かつ被告山田には前記のとおりの過失があるから、被告会社は自賠法三条により、被告山田は民法七〇九条により、連帯して、原告に生じた損害の賠償責任を負う。

四  原告の傷害等

成立に争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事故の結果に関する事実(後遺症は右足関節の機能障害であり、症状固定は昭和五三年七月二六日である。)が認められ、これに反する証拠はない。

五  損害

1  入院雑費 金六万二〇〇〇円

原告主張のとおり金六万二〇〇〇円を相当と認める。

2  通院交通費 金一四万五六〇〇円

原告本人尋問の結果によれば、少なくとも原告主張のとおり合計金一四万五六〇〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。

3  逸失利益 金四三〇万二二九一円

成立に争いのない甲第二号証によれば、当時の原告の年収は原告主張のとおり二〇九万二五四九円と算出され、就労可能年数は症状固定の昭和五三年七月二六日(当時六〇歳)からは七年とするのが相当であり、労働能力喪失率は三五パーセントとすべきである。

2,092,549×0.35×5.8743≒4,302,291(円未満切捨)

右のとおり金四三〇万二二九一円となる。

4  慰藉料 金四二〇万円

原告が本件事故により相当の精神的打撃を受けたことは明らかであり、原告の傷害の内容・程度、入・通院の期間、後遺障害の内容・程度等本件に現れた諸事情を考慮すると、慰藉料としては原告主張の金四二〇万円が相当である。

5  過失相殺等

以上の合計は、金八七〇万九八九一円であるが、右のほか原告が治療費として自賠責保険から受領したと同額の金一〇〇万円を要したことが明らかであるから、総合計は金九七〇万九八九一円となる。

なお、原告は昭和五三年七月まで労災保険を受領しているが、原告はこれに対応する休業補償の請求をしていないし、また労災保険の支給分はその性質上過失相殺の対象とするを相当としないので、休業損害分は計上しない。

そして、前記原告の過失を斟酌し、過失相殺すると、原告が請求しうるのは、前記金額の三分の二に相当する金六四七万三二六〇円(円未満切捨)とすべく、更に自賠責保険からの填補分合計金四九二万円を差し引くと、残額は金一五五万三二六〇円である。

6  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額等の諸事情を考慮すると、弁護士費用としては金一五万円をもつて相当と認める。

7  合計 金一七〇万三二六〇円

六  結論

以上のとおりであるから、被告らは、各自、原告に対し、金一七〇万三二六〇四及びこのうち弁護士費用を除く金一五五万三二六〇円に対する不法行為の日である昭和五一年一二月一日から、弁護士費用金一五万円に対する本判決言渡の翌日である昭和五七年一月二九日から、それぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

よつて、原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

別紙 〈省略〉

〈省略〉

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